地方都市のイノベーションと活性化のための都市計画論研究
従来型のヒエラルキー構造に基づく国土、地域、都市のあり方が、ネットワーク型構造へと抜本的に見直されるべきである。この構造転換のために必要な都市と地域の活性化とガバナンスの今後のあり方について、都市計画論の観点から研究をおこなっている。2014年度は、石巻、長浜、米子、長岡に焦点をあてて研究を行い、下記のような提言を行った。
(1)イノベーションの場としての中心市街地
イノベーションの観点からみると、既存事業所における新規事業の創出や新たなマーケティング・販路の創出、起業などに対する切れ目のない支援が重要である。そのためには、のみならず空き店舗やチャレンジ・ショップ、先端産業向けインキュベーション施設、事業支援コーディネーター、金融機関、市役所の産業支援部局、商工会議所、青年会議所等の起業・事業支援機能、公設試験所・大学・高専等の教育・研究・試験機関が密にイノベーション支援ネットワークを形成して、さまざまな段階において適切な支援を実施していく必要がある。このようなイノベーション支援ネットワークは、それぞれの施設が歩いて交流できる範囲に立地していることで気軽で迅速な交流が可能となる効果は計り知れない。支援ネットワークが都心に集中立地することで、これらの意欲ある事業者が交流するフォーマルならびにインフォーマルな機会も確実に増える。
(2)多様な都市型居住の場
とくに、新規事業の展開や起業を考えている意欲的な事業者が密に交流しあうことで知識のスピルオーバーを促すという意味では、SOHO型住宅や工房型住宅あるいは職住近接居住が望ましい。その意味で、中心市街地がこのような多様な居住の場を提供することが重要である。
(3)都市的ライフスタイルのオープンな表出の場
中心市街地がイノベーションの場として機能するためのひとつの重要な要素が、その場にいる人々が、都市的ライフスタイルとして、クリエイティブな雰囲気を共有することが重要である。石巻の中心市街地では、震災後、確実にこのようなクリエイティブな雰囲気が共有されてきた。その地域でえられない風土性のなかでこのようなクリエイティブな雰囲気を醸成していくために、文化や表現のオープンな表出の場を生み出していくことが必要である。
(4)都市ガバナンスの場としての可能性
ガバメントからガバナンスへの潮流のなかで、市民と行政、議会のオープンな関係が求められている。アオーレ長岡における市民恊働の場としての市役所形成の試みなど、中心市街地をガバナンス形成の場としてとらえる試みが始まっている。また、石巻では、復興プロセスにおいて、行政、商工会議所、地域金融間等の中心市街地の機能が重要な役割を果たし、また、震災復興支援NPOの多くが、行政と協働しやすく、都市圏内外とのアクセス性の高い中心市街地に事務所を構えて活動している。このように、レジリエンスの観点からの中心市街地の重要性が浮き彫りとなった。
(5)地方都市の都市再生をいかに進めるか
都市再生の論理として、広域的な観点から、中心市街地における都市再生事業の実施⇒地域プロデュース機能の強化⇒周辺地域の産業を巻き込んだライフスタイル産業クラスターの生成⇒地域経済全体の活性化(外部経済効果)⇒税収の拡大、という好循環のサイクルを目指すことを提言している。この場合の外部経済効果の地理的範囲は場合によっては周辺自治体も含まれる。
地方中心都市の中心市街地の活性化を地域全体の活性化にとっての意義という観点から見た場合、地域全体の活性化という観点から中心市街地の再生をプロデュースしていくような都市再生事業の展開が求められる。
⇒【参考】出雲圏広域ビジョン[PDF (31MB)]
アジア都市計画論
アジアやアフリカ、南米において私たちが目にする特徴的な市街地は、実は、不確定・不安定あるいは錯綜した土地権利のままでの、いわば自然発生的な市街化が都市計画制度の枠外で進むプロセスのもとで形成されたものである。このようにして生まれたインフォーマルな都市空間は、基本的生活基盤すら不十分な、高密、かつ、災害に対してきわめて脆弱な空間である。このような空間を、そのコミュニティとしての質の高さを生かしつついかに改善していくかが21世紀の都市計画にまさに問われているのではないか。
私たちは、アジアの多くの国々において、インフォーマルな市街化プロセスを詳細に調査してきた。実は、それらの開発がまったくの無法行為としておこなわれているのではなく、村や区などのヒューマン・スケールの自治的な行政単位における認知というプロセスを通じて一定の社会的認知のもとで行われていることがわかる。インフォーマルな開発の側からみれば、むしろ、問題は、自生的な土地管理システムが、近代化プロセスの中で移植された国家集権的な近代的土地管理・都市計画システムにより否定され、弱体化された結果として、土地管理システムの不安定化・錯綜化が進んだという見方も可能な事態が見られるのである。むしろ、近代的土地管理システム・都市計画システムは、自生的な土地管理システムを分権的なシステムとして組み換えて補強するという役割をもって受容されるべきだったのではなかろうか。土地管理システム・都市計画システムの徹底的な分権化を進めていくことが必要なのである。
雑誌SUR 世界の居住問題 [PDF] [No.1] [No.2] [No.3] [No.4] [No.5]
東日本大震災からの広域復興ビジョンに関する研究
復興まちづくりにおいては、復興事業の合意形成が積み重ねられ、事業が展開されている。現実の復興の絵姿が見え始めた段階で、『スピードある復興』という呪縛から一旦離れて、復興まちづくりのビジョンを、もう一度、問い直すことが求められているのではなかろうか。このような観点から、東京大学都市工学専攻国際都市・地域計画研究室の大学院生らとともに、これらの地域について、順次、広域復興ビジョン提案のための研究をおこなっている。広域復興ビジョン創出にあたっては、各主体が連携して包括的ビジョンを描き、そのうえで、各主体が、多様な主体との対話を通じて、ビジョンの深化・共有を図っていくようなプロセスが必要である。包括的ビジョンの例として、三陸地域については、次のような広域的復興の原則を提唱した。
1. 三陸の自然と文化を再生する。
巨大津波防潮堤に象徴される、人と自然を分断する社会から、津波防潮堤を建設せず、むしろ、取り除き、自然と文化の再生を丁寧に進めることにより、自然と共生する社会へと価値観を転換する。
2. 縮退を積極的にとらえ、生活文化を継承するまちなみを集落ごと地域ごとに漸進的に育てる。
人口の減少にともなう市街地の縮退と内陸、高台で津波災害を避け、さらに今までの生活文化を継承するまちなみを、ニュータウン的な発想で大規模・画一的に建設するのではなく、集落ごと、地域ごとに漸進的に育てる。
3. 雇用の場を内陸へと再配置する。
水産加工業等、歴史的経緯のもとで港に近接して立地しているものの、内陸に立地することが可能な雇用の場は、内陸に立地することを誘導する。
4. 「産業の誘致」から「人を惹きつける」ことへと地域活性化の考え方を180度転換する。
豊かな自然文化とともに暮らす三陸ライフスタイルを世界に発信し、その自然と共生する価値観に共感する人々を三陸地域へとひきつけ、地域活性化へとつなげる。
仙台、盛岡さらには新幹線、空港へのアクセスの強化により、都市文化も同時に享受することができる、活気のある地域像をつくりあげる。
多様な定住スタイル、若者にとって魅力的なライフスタイル、起業しやすい環境をつくる
⇒
国土計画のあり方と三陸広域復興ビジョン[PDF}
スマート・クリエイティブ・シティに関する研究
これからの都市のあるべき姿として、現在議論されている考え方として、スマート・シティ論、クリエイティブ・シティ論、コンパクト・シティ論の3つがある。しかし、現状では、これらの3つの議論は、それぞれ、独立に論じられていて、それらを総合した新たな都市像が描かれているとはいえない。本研究では、この3つの方向性が相互にシナジー効果を生むような都市像のあり方を、スマート・クリエイティブ・シティと名付け、その都市像を具体的に提示することを目的としている。方法論的には、スマートシティを支えるエネルギーマネジメント、クリエイティブ・シティを支えるタウン・マネジメント、コンパクトシティを支えるモビリティ・マネジメントの3つのマネジメントをIT技術をコアとしてつなぐことを通じて、新たな都市システムを構築することを目指している。
⇒水戸スマート・クリエイティブ・シティ[PDF (587KB)]